普段のズボン(その2) ランチ風雲録
「世の中スイスイ(粋々)、お茶漬けサクサク…」志ん生、志ん朝の噺に出て来るフレーズ。肩の力が抜けてあんにゃもんにゃです。~長い散歩の途中~
ランチ風雲録(10) コーヒー 
(直接、ランチの話とは違うが、大きく言えばランチ関連ではあるので…)

まだスターバックスが日本に出店して間がない頃の事だ。
早く入ってみたいと思いながらしばらく機会がなかった。

たまたま13:10アポの会社があった。
目的の会社の近くまで行くと途中にスターバックスがあった。
逆算すると歩き時間を含めてあと7~8分余裕がある。
かねてから一度入ってみたかったので
ギリギリだなとは思ったが入店した。

コーヒーの種類が多い。
なんちゃらかんちゃらと表示が並んでいる。
素早く見て「本日のコーヒー」を注文。
「サイズは?」と聞かれる。
初めてのスタバなのでよく分からず
とにかくとりあえず「普通の」と応える。

現物を渡されてギョッとなった。
デカイ!
よ~く考えたら「そうか、普通って言ったから
ミディアムサイズをくれたんだ。
そもそもアメリカ人の胃袋が基準だから
ミディアムだってでかいのなんの…。
一番小さいショートで良かったんだな」

見れば見るほどたっぷり熱いコーヒーが入っている。
だけど時間がそれほどは無いんです。
アポの時間は迫るし、コーヒーはなかなか減らない。
弱ったね、どーも。
今なら呑み残しはあそこに捨てればいいんだって知ったけど、
当時はそれも知らなかった。
特には猫舌ではないけれど、これだけの量の熱いコーヒーを
呑み切るのはなかなか罰ゲーム的だった。
味もローストが強くて焦げ臭く感じる。
ワタシの好みとはちょっと違う。
(別に店はなにも悪くありませんよ)
とにかく必死の思いで飲み干した。

結局アポには間に合ったけど、
憩いのコーヒータイムが、自分のせいで地獄になったっけ。
ランチ風雲録(9) 寿司好き 
寿司は好きである。
ただし普通の会社員だったので高級寿司店には縁がない。
(一度だけ有名店に入ったが、金額の予想が甘くて危ないとこだった事がある)
テレビや雑誌などで高級店のおいしそうな寿司を見ると、
もちろん「う~ん、食べたいものだ」とは思うけれど
すぐにあきらめるクセが付いている。

肩が凝らずに気楽に寿司を楽しめるという事では<回転寿司>はありがたい。
あのシステムでどんなに“寿司好き”が救われたか計り知れない。
その後どんどん進歩して回転寿司はとんでもなく隆盛のようだ。

もうひとつ、普通の寿司屋さんでも<にぎり1.5人前>という
システムを最初に考えたのはどこか知らないけれど、
隠れたヒットではありませんか。
夜に酒を呑みながら寿司をつまむという時は
そんな無粋なものは不要でしょうが、
男がランチとして寿司を食べたいという時には
ぴったりなんです。
1人前では物足りませんからね。
店員さんが「点五いっちょう」などと略して言ってますね。

もちろんワタシも<1.5>の大ファンです。
満足度が高いです。

寿司の食べ方のウンチクを言い出すと
人それぞれに流儀があるだろう。
ワタシなりの食べ方は…、
いや止めておこう、それはまた別の機会があれば。

さて<1.5>を注文して食べる。
職人は見ていないようでもさりげなく見ている。
<このお客さんはどんな食べ方をするか>

ワタシは食べ始め、途中、終盤とそのどの時点を取っても、
絵画のように色のバランスが取れているようにしている。
飯台の上は一種のカンバスだ。
特に色が偏るのは嫌だ。
邪道と言われようが味より色を優先する。
たとえば最後の三カンが
「イカ」「貝柱」「白身」だなんて
寒々しくて耐えられない。

食べ残しはもちろん無し。
ご飯粒ひとつ残さない。
ガリと小皿の醤油はほんの少しだけ残す。
小皿の醤油をたっぷり残す人がいるが許せない。
また舐めたようにキレイ過ぎる小皿もどうかと思う。

ん? ワッチャ~、個人的能書き書いちゃってる。
(各人の流儀があるから書かないと言ったばかりなのに)
これも寿司の魔力かな。

さて食べ終わった。
ワタシは注文以外ひと言もしゃべらなかったが、
食べ終わって店を出る時、職人の気配を感じる。
<あのお客はなかなか出来るな>

いや、実はこう思っているかも知んない。
<面倒くせぇ客だ>

レジをする小僧さんに
「とてもおいしかったですよ」と言って仕上げる。
小僧さんから職人に伝わると職人は…、
直接言われるより間接に伝わった方が
うれしい筈なんだけどなぁ。

結局「めんどくせぇ客だ」
ランチ風雲録(8) コダワリ
都内某所。

以前からそのラーメン屋の前を何回も通った事がある。
いつも行列が出来ているのを横目で見ていた。
「定休日とスープの出来が悪い日は休みます」と貼紙がしてある。
いわゆるコダワリの店のようだ。

ワタシは行列してまでラーメンを食べるのは、
イヤなのでその店に入った事がなかった。
ただしそんなに行列しているという事は、
相当おいしいんだろうなとは思っていた。
だから行列が無いか、あるいは少ない時に、
タイミングが合えば入ってみようとも思っていた。

ある日、通り掛ったら行列が極めて少なかった。
「ヨシッ、今日は仕事の時間にも余裕があるからチャンスだ」

店内に入ってもまだ行列は店内で継続する。
食べている人たちの後ろで壁に沿って待つ。
誰かが食べ終わって席を立つと次の人が座れる。
ワタシも店内の行列で、立って待った。
店内順位は5番目だった。

待っている間に様子を探る。
席はカウンターのみ。
回りを見回すといろいろコダワリが書いてある。
汁はさっぱり系かこってり系を選ぶ。
麺は太麺か細麺を選ぶ。
追加トッピングの具は煮卵、チャーシュー、もやし、バターなどを選ぶ。
なんだか面倒なシステムのようだ。
頭の中で注文を予習する。
カウンターの中はオヤジとおばさんのふたり。
オヤジは定年を前に脱サラして、
コダワリ店で数年修行して独立を許されたという感じ。
おばさんはオヤジの奥さんかも知れない。
オヤジはお約束のように頭にバンダナを巻いている。

そうこうしている内に、
5人がバタバタとほぼ一斉に食べ終わったので
待っていた5人が一斉にカウンターに座った。
当然ワタシもその中のひとりだ。
オヤジが前の人たちのドンブリを片付けながら
順番に注文を聞く。

だけど一度に5人で、
しかもひとり一人が「さっぱり」で「細麺」で「煮卵とチャーシュー」とか
「こってり」で「太麺」で「バター」とか
覚えられる訳無いので注文を躊躇していると、
オヤジは『なめんなよ、オレを誰だと思ってやがんだ?』
という雰囲気をガンガン漂わしている。
そうか、じゃ遠慮なく行くよとばかり5人全員が注文した。
オヤジが作り始めた。
「ダイジョブかいな」と懸念しつつ見ていると
案の定、オヤジが表情を崩さないまま、
「注文なんだったけ?」ともう一度聞き始めた。
5人揃って『オヤジぃ』と心の中で突っ込みを入れた。
“見ず知らずの5人”の連帯感よ!

『こりゃ出来上がるまでケッコウ時間掛かるぞ』と察知して、
ワタシはカバンから文庫本を出して読み始めた。

やっと出来上がってそれぞれの前に注文のラーメンが置かれた。
ワタシの前にラーメンを置く時、
オヤジがワタシの本に気付いて「本を読まないで」と注意した。
え? 何?

待っている間だから時間つぶしに読んでいただけではないか。
それも時間が掛かりそうな気配で、案の定掛かったではないか。
食べながら読んだら確かに気を悪くするかも知れんが、そうではないぞ。
待っている人もいるから、素早く食べるなんてのは心得ているわい。

つまりこうですか、
出来上がるのを畏まって待ち、
調理過程を凝視して、
出来上がったら“ありがたく食べさせて戴く”のが
コダワリ店と客のあるべき関係なんですか?

ムッとした。
<時と場合>だろう。
高級レストランなどでは反則でも、
ここは町場(マチバ)のラーメン屋ではないか。
あんたにとっては命を懸けているのかも知れんが、
客にとってはただの食事だ。
気楽に食べさせろ。

行列の出来るいわゆる有名ラーメン店というものに、
ワタシはほとんど知識がないので分からないんだけど、
「何だかなぁ~」の阿藤カイのセリフが感想だ。
ランチ風雲録(7) カウンター
都内某所。

13:30頃だったのでその定食屋に入った時、客はいなかった。
昼のピークが済んで一段落の時なんだろう。
カウンターとテーブルがあったが、
ひとり客といういつものクセでカウンターに座った。

注文をして、店に置いてあったスポーツ新聞を見ていると
なんだか様子が変だ。
カウンターの中にいる店主らしきオヤジが、
ホール係の女の子に小言を言っているのだ。
女の子と言っても20代後半か30過ぎかもしれない。
客が減ったし、次のワタシの定食はまだ出来ないので
彼女はテーブルを拭いたりイスを片付けたり、
割り箸や卓上醤油を足したり
それなりに立ち働いている。

その小言が常識の範囲ならいいのだが
ズ~っと続いて止まらない。
ワタシが店に入った時に既に始まっていたから
たぶんいつもの事なのだろう。
カウンター越しの小言オヤジのガミガミが
とにかくうるさい。

ワタシはそんな状態なんて夢にも思わないから、
オヤジの真ん前のカウンターに座ってしまっている。
オヤジと女の店員の“線上ぴったり”にワタシがいる。
間が悪いったら無い。

女子店員はというとこれが無反応。
全然コタえていない。
馬耳東風。
自分の仕事だけはしっかりやっている。
普通だったらこんなに小言を言われ続けたら辞めちゃうだろうに…。
ん? という事はこのオヤジの娘なのかも知れない。
もう慣れっこになってしまっているのか。

しかしお客にとっては迷惑な話だ。
ワタシの頭の上で小言がネチネチ、
いつ果てるとも無く続いているのだ。
楽しかるべき食事の時間が台無しだ。

そんな時にまたサラリーマン風の客が新たに入って来て、
これまたカウンターに座った。
そいつも段々、この店の現在の状況を呑み込めて来て、
いやな顔をしている。
憂鬱な状況をひとりで背負っていたワタシは、
いやな気分が少し薄まった。

とにかく二度とこの店には来ないと固く心に誓った。
ランチ風雲録(6) 不思議
一年の内、ちょうど良い気候というのは少なくて…、
外回りしているとそんな事に敏感になるものである。
暑くも寒くもない、風も微風で心地よい、
そんな日は何がなしウキウキして来る。
しかも売上成績が調子イイなどという時は、なおさらである。
歩きながら鼻歌なども出て来ようというものである。

目黒だったかな。
ホントはいつものように、混雑を避けて少し早めに
昼食にしようと思っていたのだが、
仕事の行きがかり上で12時半ころになってしまった。
そして午後のアポの関係もあるので、
昼食にそんなに時間が掛けられない。

店を物色して歩くと、お約束のようにどこもかしこも混んでいた。
うしろの時間が決まっているので余裕がない。
どこか空いている店は無いかいな。

ん? ガラ空きのランチ屋があった。
道からガラス越しに店内が見える。
「どうして?」と怪しんだが、
すぐ食べられそうな店はここしかないのでやむを得ず入った。

当然なにかワケアリと身構えた。

そして食べた。
ところが…、
拍子抜けな事に
全くの話、
別段まずくもなく、サービスが悪いわけでも無かった。

首を傾げながら店を出た。
結局、あの店は何だったのか謎のままだ。
ランチ風雲録(5) 盆休み
毎年8月の旧お盆の休み中は東京が閑散とするのだった。
それはもう唖然とするほど人がいなくなる。
道路も通勤電車もガラガラ。

一斉に休業する会社と交替で休ませる会社があって、
営業している会社でも出勤する社員はガクンと減っている。
当然、サラリーマン目当ての飲食店や居酒屋なども休む店が多い。

昼時になっても、表通りから裏通りまで軒並み飲食店が休み。
営業している飲食店を見つけるのはかなり難しい。
どこもかしこも<◯月◯日~◯日まで盆休み中>の貼紙がしてある。
街を流す営業マンにとって魔日というわけだ。

都内某所。
散々歩いてやっとランチをやっている小さなウナギ屋を見つけた。
外に出ている看板には安いのから高いのまで
4~5種類のメニューが書いてあった。
(6~700円くらいのものから3,500円くらいまで)

入店するとテーブルに常連っぽい3人連れがひと組だけ。
ワタシはひとりなのでカウンターに座り、
一番安いランクのうな丼を頼んだ。

出て来たうな丼を見て腰砕け状態になった。
切手ほどの大きさのウナギが2つご飯に乗っていた。
料金から考えりゃ仕方ないか。
それにしても、仕方なさすぎるなぁ。

ワタシの後から入店して来た人がいた。
<観光で東京に出て来て、昼になったが
飲食店が軒並み閉っていて途方に暮れる。
やっとここが開いていたので「やれうれしや」とたどり着いた
初老のおじさん一人>という感じの人だった。
東京のうなぎ屋に入るのは初めてで
オズオズ感、オドオド感を漂わしていた。

店主は先ほどから鰻を焼きながら常連らしき人たちと、
祭りの自慢話を繰り広げていて盛り上がっていた。
たぶん肩には神輿の担ぎダコがあるんだろう。
どうもこの店主は自分が<江戸っ子>だという事を
吹聴するのが生き甲斐のようだった。
こういう手合い、たまにいるんだよねぇ。

店主がその初老おじさんに、
わざとブッキラボウな物言いで注文を促した。
「なんにすんの?」
<江戸っ子店主>の言い草に呑まれてしまって、
初老おじさんは
「あ、あの、何でもいいです」と言ってしまった。
「それじゃ分かんないよ、一番高いの焼いちゃうよ」と
軽口の餌食にされてしまった。
店主と常連たちで(この田舎モンが的に)失笑し合っている。

ワタシは食べながら横で聴いていてムッとなった。
(何も言えなかったけど…)
本当の江戸っ子はそんなんじゃないと思うな。
気を働かせて、お客さんに恥をかかせないように
段取を持って行くのがスジじゃないのか。
お客さんを脅かしてどうすんの?

ここのオヤジは粋を気取るあまりに“粋がる”になってしまっている。
そういうのを逆に“無粋(ブイキ、ブスイ)”
または“野暮”というんです。
首からそういう看板をぶら下げている事が分からないようだ。

二度とこんな店来るもんか。
ランチ風雲録(4) 理由
代々木。
地下鉄大江戸線がまだ工事中の頃で、
JRの駅周辺も、近くの通りも全体にバタバタしていた。

とある日本蕎麦屋。
昼時なので混んでいた。
真ん中の大きなテーブルに7~8人で相席。

座ったら水の入ったコップが配られる。
その時もかなり空腹だった。
水はすぐに飲んでしまった。
混雑しているので、予想通りそこそこ待たされた。
やっと注文の親子丼が来たので、
どんぶりの蓋をあけて、
間髪を入れず何も考えずにかっ込んだら
「ハッ、ハッ、ハッ、熱、熱、ハッ、ハッ」
予想外に熱い。
水は全部呑んでしまったし、
「わ、わ、わ、何か無いか、
口の中が焼けるように熱~い!」

真っ赤に焼けた炭火が口中にある感じだ。
ホントに切羽詰まる。
あ、添え物の小皿にヌカミソの胡瓜が二切れある!
<親子丼に付き物のお香コ>だ。
0.8秒でそれを二切れとも口に放り込む。
ジュと音がした(ような気がした)。
助かった、ふ~。
九死に一生。
心地よい冷たさが焼けた舌を救ってくれた。
めくるめく快感と安堵。

判然と悟った。
「あ~、きゅうりのお香コはこのために付いているんだな」
ランチ風雲録(3) 言い方
都内某所。

店前に出した看板に3種類の昼定食が書いてある。
<どれにするか>
これがささやかな楽しみでもある。
ああでもない、こうでもないと考えて、
と言っても数秒の事だが
「ヨシッ」ときっぱり決めてガラス戸を開けて店内に入る。

空いているテーブルに座り、オーダーを取りに来たあんちゃんに

A定食!」と力強く伝える。

するとあんちゃんが、
「A定、終わりました」となぜか“勝ち誇ったように”言うではないか。

え~?
まだ12時ちょい過ぎだぞ。
そんな早い時間に売り切れる定食ってあるのかよ。
ナメンナヨ。
百歩譲って、もし何かの拍子に早く終わってしまったんなら店の前の看板のA定食を消しておけってーの。
そして何よりも問題なのは、ひと言も<詫び>のセリフが無いじゃないか。
「申し訳ありません、A定食は本日終わってしまいました」
これだけ言ってくれれば「まぁショーガないな」と納得するんだよ、こっちは。

温厚なワタシもさすがに堪忍袋の緒が切れて
はっきり言ってやったぜ、…ったく。

「じゃ、B定食でいいです」
ランチ風雲録(2) 寒い日
たしか渋谷だったと思う。
その日はバカに寒い日だった。
ミゾレというか氷雨というか…降っていて、
傘を持つ手の指先の感覚がなくなるほどだった。

アポを取ってあった会社をその日初めて訪問したのだが、
まぁその件は首尾悪く全く実りがなかった。
落胆と悪い天気でトボトボと駅の方に歩いた。

とにかく寒い。(営業で訪問会社に入る時、いちいち脱ぐのが面倒なので冬でもコートは着ていない)
空腹と寒さで、まだ11時半くらいだったが早めの昼食にする。
物色して歩き回るのが面倒なので通り掛かりの寿司屋に入った。
<ランチにぎり1.5人前980円>の看板が目に入った。
そんな天気の日なので店には客がなくワタシが一番乗りのようだ。

傘を傘立てに入れ、カウンターに座るとすぐお茶が出た。
持って来たのはいわゆる追い回しの高下駄を履いている若い衆。
にぎりを職人が作っている間に、また若い衆がみそ汁を持って来た。
大きなエビが入っていて少し豪華なみそ汁だった。
この寒さの中を凍えながら歩いて来た身には
堪らないごちそうだった。
両手で抱えて愛おしむようにすすった。
少しずつ身体が暖まって来た。
実においしい。
堪能して飲み終わった。

やがてにぎりも出来上がった。
すると若い衆がまた横に来て言った。
「みそ汁、お替りどうですか?」
一瞬戸惑った(それって料金はどうなの)。
でも<言外の言>を読めば、すぐに彼のサービスと分かった。
素直に「お願いします」と受けた。
(お勘定の時、もちろん勘定に加えていなかった)

店を出て駅に向いながら考えた。
あれは彼の一存だったのだろうか、それとも店の方針だったのだろうか。
一存だったら、後で怒られたんじゃないだろうか。


なにはともあれ、
飛び切り寒い日に、ほんのり心の温まる体験だった。
あの若い衆のこれからの幸運を祈りたい。
ランチ風雲録(1) 目の光
営業マンとして毎日東京中を歩き回っていた。
昼時には通り掛かりの飲食店で食事をした。
(今はリタイアしたので)これらは1985~2005年くらいの話。
その時々の記憶に残った体験を書いてみよう。
…思い出しながら、不定期に。

― ― ―

あれは確か上野だったんじゃないかな。
営業活動の途中、昼時になったのでいつものようにランチを食べようと思い、店を物色しながら歩いた。
そして行き当たりばったりに、とある「ランチ定食」の看板が出ている喫茶店に入った。
<A定><B定><C定>の内のひとつをオーダーした。
かなり空腹だったので何気なく「大盛りで」と付け加えた。
その瞬間、注文取りのおニイさんの目が光った(ような気がした)。
同時に周囲のお客さんたちの会話が止まって、お互いに顔を見合わせた(ような気がした)。
気のせい?

やがて注文の定食が目の前に置かれて理解した。
「あ、そーだったのか」
ライスの量が多い。いや、かなり多い。
普通の2倍くらいある。
そうかこれか、さっきの周囲の反応の原因は。
そしておニイさんの目の光は…。
その目には「イイ度胸してんじゃねーか、ウチで大盛り注文するとは…」の思いが込められていたんだねぇ。

だって初めて入った店なんだから、知らないよぉ。
もちろんやっとの思いで残さず全部食べました。
食べない訳いかないでしょ、こちらから注文したんだから。
…相当ムリしました。


当然、午後の仕事に差し支えました。